新しい薬を作るのは、お金も時間もかかる大変な作業だ。だが今後は、AIが新薬開発を大幅にスピードアップしてくれるかもしれない。
それを証明するかのように、エディンバラ大学のバネッサ・スメール=バレート氏らは、AIを駆使することで、ほんの5分で老化を予防する新たなアンチエイジング薬の候補を探し出すことに成功したという。
最終的に絞り込まれたものは、ゾンビ細胞を退治することで体の老化を防いでくれる「老化細胞除去薬」としてとても有望であるそうだ。ゾンビ細胞に関しては本文で説明する。
引用→https://karapaia.com/archives/52324070.html
老化を広めるゾンビ細胞
私たちの体を老化させる原因の1つが、「ゾンビ細胞」と呼ばれるものだ。
この細胞は生きてはいるが、それ以上細胞分裂する力を失っている。
細胞分裂する力を失っていることは、悪いことばかりではない。
老化した細胞はDNAに傷がついていることがある。だから分裂しないことで、そうした古びたDNAがそれ以上広まらないようにする。
とはいえゾンビだ。当然、悪さもするのである。困ったことにこの細胞は、周囲の細胞を老化させようとするのだ。まるでゾンビが新しく仲間を作るかのように。
だから紫外線や化学物質によるダメージなどで、体の中にゾンビ細胞が蓄積すると、糖尿病・変形性関節症・がんといったさまざまな病気を引き起こすようになる。
だからこそ、こうしたゾンビの群れを退治してくれる薬には、アンチエイジング効果があるのである(なお人間の脳には、死後に活発になる本物のゾンビ細胞もある)。
そうしたゾンビ細胞を殺すアンチエイジング薬のことを「老化細胞除去薬(セノリティクス)」という。理想的には、ゾンビ細胞を速やかに退治しつつ、健康な細胞にはなんの影響もない、そんな薬がいい。
AIが老化細胞除去薬の候補を5分で特定
スメール=バレート氏によると、これまでのところおよそ80種の老化細胞除去薬が見つかっているが、人間で試されたのはたった2種類だけだという。
安全かつ効果的な老化細胞除去薬がもっとたくさん見つかればいいが、そもそも新薬の開発は膨大な資金と10~20年もの歳月がかかる大変な作業だ。
そこでスメール=バレート氏らは、AIで老化細胞除去薬の開発をスピードアップできないかと考えた。
そのためにまず、AIにすでに知られている”老化細胞除去薬”と”普通の薬”のデータを与えてみた。ここから、この2種の薬の違いを学習させるのが狙いだ。
もしもAIがゾンビ細胞を倒す薬の成分(分子)の特徴を見分けられるのならば、初めて目にした成分でも、それが老化細胞除去薬として効果があるかどうか予測できるはずだ。
今回の実験では、いくつかのテストを経て選び出された一番性能のいいAIモデルに、4340個の分子を見せている。
するとAIはたった5分で21個の候補を挙げてきた。
同じことを手作業でやろうとしたら、数週間の集中作業と薬の購入費用900万円のほか、実験機材の購入費用やそれを準備する手間がかかっただろうという。
AIが挙げた新薬候補が本当に有効なら、新薬開発は大幅にスピードアップしたことになる。
3種の有望な老化防止薬候補を発見
こうして絞り込まれた分子の実力を実験で試してみると、21種のうち3種類(オレアンドリン、ペリプロシン、ギンクゲチン)は本当に有望であることがわかったという。
その3つの分子は、老化細胞を除去しつつ、それでいて健康な細胞にはほとんど影響がないのだ。
さらなる実験では、一番有望なのはオレアンドリンであることも突き止められている。
こうしたAIの威力は素晴らしく、質のいいデータがあれば、新薬開発のプロセスを一気に加速してくれる可能性を秘めているとのこと。
スメール=バレート氏らは今、AIが見つけた3つのアンチエイジング薬候補を人間の肺組織で試しているところだ。2年以内を目処に、次の成果を報告したいとのことだ。
この論文は『Nature Communications』に掲載された。